結局のところ実際の旅とは99%の無意味な時間を使って、

 

 

 

 

1%の切り抜きの思い出が残るという、

 

 

 

 

まるで非効率な上に成り立つ物語ともいえる。

 

 

 

 

バックパッカーの目がキラキラしているなんて幻想である。

 

 

 

 

私のような社会不適合者が淀んだ目をして、

 

 

 

 

時間を浪費し続けているようなものだ。

 

 

 

 

そんなまったく生産性のない時間をビンタン島で過ごした私は、

 

 

 

 

翌日8時にはチェックアウトをして、

 

 

 

 

昼前には同じフェリーに乗ってシンガポールに戻ってきていた。

 

 

 

 

いったい何をしてるんだと、何度も自己嫌悪に陥りそうになりながらも、

 

 

 

 

「違う違う!俺は海外に失敗をしにきたんだ。

 

 

 

 

どんだけ自分は思い上がってたショボい男なのか、思い知らされればいいんだ!」と

 

 

 

 

ポジティブに思いながらイミグレーションを通り抜けた。

 

 

 

 

よし、今度はどこに向かおうか!と照りつける日差しの中、

 

 

 

 

地図を片手にバス停に向かって歩いていった。

 

 

 

 

ようやくバス停に辿り着いて時刻表と行き先を調べていると、

 

 

 

 

不意に背後から

 

 

 

 

「日本の方ですか?」と日本語で声をかけられた。

 

 

 

 

振り返ると小柄なOL風の女性で、

 

 

 

 

薄ピンク色をした日傘をさしていた。

 

 

 

 

身なりからして日本人であろうし、

 

 

 

 

歳は私より少し上のように見えた。

 

 

 

 

私はこんな所で日本人に声をかけられると思っていなかった為、

 

 

 

 

すかさず「YES!」と日本語に英語で答えるというアホな事をしてしまった。

 

 

 

 

日傘の彼女は私を可笑しな人と思ったのか、

 

 

 

 

微笑みながら話しだした。

 

 

 

 

なんでもこの場所で大きいバックを背負った日本人が

 

 

 

 

一人テクテクと歩いていて、ちょうど同じバス停に並んだので興味がわいたようだ。

 

 

 

 

5分ほどで来たバスに乗り込んで話を聞くと、

 

 

 

 

彼女はシンガポールで現地採用されて働いているという。

 

 

 

 

今日は仕事の用事でこの近くに来ており、

 

 

 

 

これから会社に戻る途中だと言っていた。

 

 

 

 

私は軽い自己紹介をし、昨日ビンタン島に渡ったのだが、

 

 

 

 

あまりにもリゾート過ぎたので速攻で帰ってきた話をすると、

 

 

 

 

前項に綴ったような島の説明をしてくれたのだった。

 

 

 

 

これからどこに行くのかと聞かれ、

 

 

 

 

私はこれから2ヶ月ほどかけてタイのチェンマイまで行くつもりだが何も決めておらず、

 

 

 

 

とりあえずダウンタウンで安宿を探すつもりだと答えると

 

 

 

 

「あっそうなんですねぇ」と言い、

 

 

 

 

彼女は少し考えるような顔をしたあと、

 

 

 

 

サラッと「もし慎也さんが良いならウチの部屋が一つ空いてるから使いますか?

 

 

 

 

もちろんお金はいらないですよ」と提案されたのだった。

 

 

 

 

なに?なんて言った?

 

 

 

 

まったく想像も予想もしていなかった言葉だった。

 

 

 

 

日本人の女性から声をかけられた事も、

 

 

 

 

出会って30分もしないで赤の他人に泊まるかと提案された事も、

 

 

 

 

全てが私の頭を混乱させた。

 

 

 

 

まず普通に考えると「怪しい」の一言だ。

 

 

 

 

アメリカで数々の怪しさを経験したきた私だが、

 

 

 

 

今までの怪しさとは根本的に種類が違うものであった。

 

 

 

 

まず日本人という事で信用できること。

 

 

 

 

現地採用されているほど英語がペラペラの知性。

 

 

 

 

身なりからしてどう見てもお金を持っているのに、

 

 

 

 

なぜか私に宿泊の提案をしている。

 

 

 

 

何のメリットがこの女性にあるのだろう。

 

 

 

 

普通女性が「泊まります?」っていうか?

 

 

 

 

こんな急展開が起こるのが旅といえよう。

 

 

 

 

コレも何かの縁で乗り掛かった舟であるし、

 

 

 

 

ハッキリ言って断る理由が1ミリもない。

 

 

 

 

私は「本当に良いんですか?いやぁーマジで助かります」と答え、

 

 

 

 

駅でバスを降りて電車でダウンタウンへと向かっていった。