出発から2時間半後、

 

 

 

 

私はマレー半島東岸にある「メルシン」という街にいた。

 

 

 

 

降りた場所はたんなるバス停であった。

 

 

 

 

私と数人を下ろすと、ドアの無いバスは煙を上げて行ってしまった。

 

 

 

 

泊まるあてもなく降りた私は、ひとりポツネンとベンチに座っていた。

 

 

 

 

時計を見ると午後の4時。

 

 

 

 

とりあえず暗くなる前に泊まるところを探そうと歩き始めると、

 

 

 

 

建物から出た看板に「HOTEL GOLDEN CITY」とあり、

 

 

 

 

下に「金城大旅店」と書かれた長屋風の建物を見つけた。

 

 

 

とりあえず1泊いくらなのか聞いてみようと建物に入ると、

 

 

 

 

2階に上がる階段があった。

 

 

 

 

静かで暗い階段を恐る恐る上がると、小さな受付カウンターがあり、

 

 

 

 

頭にターバンを巻いたインド人が座っていた。

 

 

 

 

私が「部屋は空いているか」と聞くと、

 

 

 

 

インド人は横目でチラ見をして立ち上がり

 

 

 

 

「お前は一人か?何泊だ?」と巻き舌の英語で質問してきた。

 

 

 

 

私が1名1泊だと答えると、

 

 

 

 

手元のノートをペラペラとめくり

 

 

 

 

「空いている。ここに名前。パスポートを出せ」と

 

 

 

 

ペンでノートを叩きながら答えてきた。

 

 

 

 

私はすかさず1泊いくらなのかと聞くと「ワンナイトは50リンギットだ」と言う。

 

 

 

 

「まずは部屋を見せてくれ」と言うと

 

 

 

 

 

「OK」と鍵を取り出し3階に登っていった。

 

 

 

 

303と書かれた部屋に入ると道路に面した部屋で、

 

 

 

 

天井にはファンとダブルベッドが1つ、

 

 

 

 

鏡台があるシンプルな部屋で、トイレとシャワーは共同のようだ。

 

 

 

 

他のホテルを探すのが億劫なので、

 

 

 

 

私は即座に「OK」と返事をして宿泊することにした。

 

 

 

 

時刻はもう夕方の17時だ。

 

 

 

 

とりあえずシャワーを浴びてから夕飯を食べに行こうと、

 

 

 

 

豆電球の薄暗いシャワー室に行くと、お湯の無いただの水シャワーであった。

 

 

 

 

後で知ることになるが南国の安宿はほぼ水シャワーである。

 

 

 

 

またトイレは和式便所が前後逆になっており、正しい使い方に頭を悩ませた。

 

 

 

もちろんトイレットペーパーなんかはない。

 

 

 

 

生まれて初めて指で処理をしたのもここのホテルであった。

 

 

 

 

軽い衝撃を受けたが、私はそこら辺は無頓着であり、

 

 

 

 

受け入れてしまう性格である。

 

 

 

 

左手でキレイに処理して夕飯を食べに行くことにした。